2008年03月22日

医師の受難は続く

こんにちは、ドクタールウです。

今回は、医師不足の大きな原因の一つである、医師の刑事訴訟についてです。

弁護士・棚瀬慎治氏に聞く
「医師を必ず起訴」という新ルートが誕生
改正検察審査会法が施行間近、“医療事故調”議論にも影響
橋本佳子(m3.com編集長)
 「検察の意向にかかわらず、医療事故が刑事裁判に発展する」――。2009年5月27日までに施行が予定されている改正検察審査会法では、検察官が不起訴とした事例でも、起訴・刑事裁判に至る仕組みが導入される。厚生労働省が検討を進める“医療事故調”が設置されれば、「医学的に不当な起訴」を防止することができるとの期待が医療界にはある。しかし、「多くの医療関係者は、“医療事故調”ばかりに目が行っており、検察審査会法改正の問題の重大性に気づいていない」。こう警鐘を鳴らす、弁護士の棚瀬慎治氏に聞いた。


――先生は、医療事故の刑事事件も扱っておられますが、最近、傾向が変わってきたのでしょうか。検察は謙抑的になってきたという話もお聞きします。

 医療事故を専門に扱う弁護士はそう多くはないのですが、その大半は民事事件が主で、刑事事件を扱う弁護士は限られています。
 福島県立大野病院の産婦人科医が2006年2月に逮捕され、翌3月に起訴されましたが、それ以降、検察は医療事故の起訴に慎重になってきたと感じています。私が扱っている案件でも、最終的には不起訴となっているものばかりです。例えば、医療機関と遺族の間で示談が成立しなかった場合、遺族がすぐに刑事告訴したケースがありました。警察は告訴されると捜査せざるを得ないのですが、病院に示談を勧め、示談成立を待って、最終的には不起訴となったケースもあります。

 
――現在の検察審査会の仕組みをお教えください。

 今は、検察が「不起訴」とした場合、被害者などが検察審査会に不服を申し立てることができます。検察審査会は、国民から無作為に抽出された11人で構成し、「起訴相当」(11人中8人以上の多数)、「不起訴不当」(過半数)、「不起訴相当」(過半数)のいずれかの議決をします。
 しかし、「起訴相当」あるいは「不起訴不当」となっても、検察は検察審査会の意見には縛られず、あくまで独自に判断するのです。やや古いデータですが、2003年の場合、検察審査会で「起訴相当」「不起訴不当」とされた事件のうち、実際に検察が起訴したのは24.4%にすぎません。

 医療事故の場合ですが、検察審査会は国民で構成するため、どうしても患者側の視点に立つためか、「起訴相当」あるいは「不起訴不当」とされるケースが多いようです。私の経験では、「不起訴相当」の議決を経験したことがありません。それでも、検察は医師の意見なども踏まえ、専門的な調査を行って「不起訴」としているため、検察審査会が「起訴相当」「不起訴不当」としても、起訴に至るのはごくわずかではないでしょうか。
 
  ――新たな仕組みでは、検察の判断によらず、「起訴」が可能になるわけですか。

 2004年5月28日に、「検察審査会法を改正する法律」が公布されました。この法律は、2009年5月27日までに施行するよう定められています。
 現行と大きく異なるのは、検察審査会が第一段階と第二段階の二階建てになるという点です(本文最後の図1)。(1)検察審査会が「起訴相当」とし、検察が「不起訴」などとした場合、検察審査会の再度の審査に付され、(2)検察審査会が再度、「起訴相当」とした場合に、検察に代わって「指定弁護士」が起訴する――という形になります。

 つまり、検察の判断にかかわらず、起訴が可能になる新たな仕組みが誕生するわけです。患者遺族が捜査機関に告訴し、検察が「不起訴」としても、その後、検察審査会で再度「起訴相当」とされれば、「必ず起訴」されるのです。
 
 ――検察官に代わって起訴を行う、「指定弁護士」とは何でしょうか。

 これは現行制度にはありません。裁判所が指定するもので、検察官の代替役を果たす弁護士です。検察審査会が第二段階で「起訴相当」とした場合、起訴を行います。その後の刑事裁判でも、検察官の代わりに指定弁護士が公判の維持に当たり、尋問などを行います。
 また、第二段階の検察審査会では、弁護士は法的助言を行う役割も果たします。
 つまり、新たな仕組みでは、検察審査会への不服申し立てから起訴に至るルートで、弁護士が関与する機会が増えます。前述のように、医療事故を扱う弁護士はそう多くはありませんので、医療に精通していない弁護士がかかわる可能性も十分に考えられます。しかも、検察審査会は国民で構成するため、どうしても患者側の視点に立つ傾向にあります。
 ――新たな制度が始まれば、“医療事故調”を設立しても、「医学的に不当な起訴」の問題は、必ずしも解決しない恐れがあると。
 現在の刑事裁判をめぐる問題として、医療に精通していない警察・検察が捜査・起訴を行うことが挙げられます。現在、厚労省は“医療事故調”の創設を検討していますが、それによりこの問題は解決するかのような説明をしています。医師などが参加する医療安全調査委員会で診療関連死の死因究明などを行い、報告書をまとめますが、そのうち調査委員会が警察に通報するのは、故意または重大な過失に限るとしているからです。また「遺族が警察に告訴しても、すぐ捜査はせず、調査委員会を使う」といった説明も聞かれます。
 しかし、このように調査委員会で医療者が専門的に死因究明を行っても、検察審査会法が改正されれば、全く別のルート、つまり医療の専門家の視点を通さずに起訴されるルートが誕生するのです。

 
――そもそも、なぜこうした仕組みが導入されたのでしょうか。

 一連の司法制度改革の一環です。2009年度から裁判員制度がスタートするほか、刑事裁判の法廷で被害者・遺族らが被告人や証人に直接質問ができる制度が導入されます。これらと同様に、検察審査会法の改正は、犯罪被害者保護の視点から進められてきました。2001年6月12日に取りまとめられた司法制度改革推進審議会意見書によれば、「検察官に独占的に付与されている公訴権行使の在り方に民意を直截に反映させていく制度をより拡充すべきである」とされており、このような流れで検察審査会法の改正に至りました。
 医療者は“医療事故調”の議論ばかりに目が行っており、この問題の重大性に気づいていないように思います。そもそも検察審査会法の改正は、医療事故に限らず、すべてに適用されますので、かえって医療者が気づきにくいのかもしれません。  

 
――最後に、“医療事故調”をめぐる議論について、先生のお考えをお聞かせください。

  “医療崩壊”といわれる折、今、一番必要とされるのは、医師が安心して働くことができる環境づくりではないでしょうか。医師の「立ち去り型サボタージュ」を防ぐためにも、医師が納得できる制度という視点が第一だと思います。
 確かに、医療事故が刑事事件になるケースは少ないのが現実です。しかし、福島県立大野病院の例でも分かるように、数の問題ではなく、1件でも不当な事例があれば、それで医療は崩壊の危機に直面してしまうのです。“医療事故調”だけでなく、検察審査会法改正についての議論も早急に行う必要があります。



詳細はこちらから  http://blog.with2.net/link.php?579069

posted by ドクタールウ at 22:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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